カスタマーサクセスにおけるリテンション|指標の計測・改善施策を解説
|2025-06-05公開|2026-08-25更新
カスタマーサクセスにおけるリテンションとは、顧客が製品やサービスから継続的に価値を得られる状態をつくり、契約や利用を継続してもらうことです。特にSaaSやサブスクリプション型のビジネスでは、契約後の継続利用が収益の安定や事業の成長を左右するため、リテンションはカスタマーサクセスの成果を測る重要なテーマです。
ただし、リテンション率だけを追っても、将来の解約リスクやその原因までは分かりません。顧客数や解約数、収益の維持といった結果指標に加えて、利用状況、ヘルススコアなどの先行指標を組み合わせて確認する必要があります。
本記事では、カスタマーサクセスとリテンションの関係、主要指標の計算方法、リテンションが低下する原因、顧客ライフサイクル別の改善施策まで解説します。
カスタマーサクセスの業務削減に
興味ありませんか?
- 同じような説明をしているミーティングの回数が多い
- オンボーディングが上手くいかず立ち上がりに時間がかかる
- 活用方法をもっと伝えたいがミーティングが設定できない
このようなお困りごとがありましたら、ぜひ一度Video Agent「TALKsmith」を検討してみてください。「TALKsmith」は対話型パーソナル動画で最適な解説・説明を自動化をすることができます。そのためCSコストの削減から、継続的な顧客関係の構築まで実現できます。まずはサービスサイトをご覧ください。
カスタマーサクセスにおけるリテンション
リテンションを改善するには、単に解約を引き止めるのではなく、顧客が継続する理由をつくる必要があります。まずは、リテンションの意味とカスタマーサクセスとの関係を整理しましょう。
リテンションの意味
リテンションとは、既存顧客との関係を維持し、製品やサービスを継続して利用してもらうことです。「顧客維持」や「継続利用」と表現されることもあります。
たとえば、月額制の業務システムを100社が利用しており、1年後も90社が契約を続けている場合、その企業は既存顧客の多くを維持できていると判断できます。リテンションは、このような継続状況を顧客数や売上、利用行動などの側面から捉える考え方です。
カスタマーサクセスとリテンションの関係
カスタマーサクセスとは、顧客が製品やサービスを活用し、導入目的や事業上の目標を達成できるように能動的に支援する活動です。
一方、リテンションは、顧客が価値を得た結果として契約や利用が継続している状態を表します。つまり、カスタマーサクセスはリテンションを高めるための活動であり、リテンションはカスタマーサクセス活動の成果を測る重要な観点の一つです。
カスタマーサクセスの役割やカスタマーサポートとの違いについては、「カスタマーサクセスとは?基本からKPI・成功事例・導入メリットまで解説」もあわせてご覧ください。
リテンション・更新・チャーンの違い
リテンション、更新、チャーン(解約・離脱)は、いずれも顧客の継続状況に関係する用語ですが、確認する対象が異なります。
| 用語 | 意味 | 主に確認すること |
|---|---|---|
| リテンション | 顧客や売上、利用を維持すること | 既存顧客をどれだけ維持できたか |
| 更新 | 契約期間終了後に契約を継続すること | 更新対象となった契約が継続されたか |
| チャーン | 顧客が解約・離脱すること | 一定期間にどれだけ顧客や売上を失ったか |
たとえば、年間契約のSaaSでは、利用頻度が大きく低下していても、更新月までは契約顧客として残ります。更新率だけを見ていると、将来の解約リスクを見逃す可能性があります。そのため、契約更新という結果だけでなく、日々の利用状況や顧客状態もあわせて確認することが重要です。
リテンションは「解約防止」だけではない
リテンション改善というと、解約の兆候がある顧客を引き止める活動を想像しがちです。しかし、本来のリテンションは、更新直前だけで取り組むものではありません。
契約前には顧客の期待値を調整し、導入後には早期に価値を実感してもらい、その後は利用定着や成果創出を支援します。顧客が十分な成果を得た後には、必要に応じて利用範囲の拡大やアップセルにつなげます。
つまり、リテンション改善では、顧客ライフサイクル全体を通じて「継続する理由」をつくることが重要です。
カスタマーサクセスでリテンションが重要な理由
リテンションは、カスタマーサクセス部門だけが管理する現場指標ではありません。既存顧客の継続状況は、収益性、営業・マーケティング投資、事業計画、プロダクト戦略にも影響します。
1. 継続収益を安定させ、LTVを高められる
SaaSやサブスクリプション型のビジネスでは、新規顧客を獲得しても、短期間で解約されれば十分な収益を得られません。
顧客が長く契約を継続すれば、継続収益が積み上がり、LTV(顧客生涯価値)も高まりやすくなります。その結果、新規顧客獲得に投じたCAC(顧客獲得単価)を回収しやすくなり、事業全体の収益性も改善します。
たとえば、顧客獲得に60万円かかり、月間粗利益が10万円であれば、単純計算でCACの回収には6か月必要です。3か月で解約されれば投資を回収できませんが、1年以上継続すれば、その後は利益を積み上げられます。
LTVの定義や計算方法、改善施策については、「LTV(顧客生涯価値)とは?重要視される理由や計算方法、最大化させる施策まで徹底解説!」で詳しく解説しています。
2. 顧客・プロダクトの課題を早期に発見できる
リテンションを継続的に分析すると、顧客とのミスマッチやプロダクト上の問題を発見しやすくなります。たとえば、特定の業種だけチャーン率が高ければ、その業種の課題と製品機能が合っていない可能性があります。ある獲得チャネルから受注した顧客だけ継続率が低ければ、営業やマーケティングの訴求によって過度な期待を形成しているかもしれません。
ただし、リテンション率が高いからといって、顧客満足度も必ず高いとは限りません。長期契約や乗り換えコストによって、不満を抱えながら契約を続けている場合もあります。利用状況や顧客の成果、問い合わせ内容などと組み合わせて判断することが重要です。
3. アップセル・クロスセルによる成長につながる
顧客が製品を活用し、成果を実感するようになると、利用範囲を広げる機会が生まれます。たとえば、一部門で業務改善の成果が出た場合、他部門への展開によってアカウント数を増やしたり、追加機能が必要になったタイミングで上位プランへ移行したりする可能性があります。
重要なのは、アップセルを売上目標だけで行わないことです。現在の契約で顧客が十分な成果を得ており、追加契約によってさらに顧客価値を高められる場合に提案することで、継続と収益拡大を両立しやすくなります。
リテンションを測る主要指標
リテンションを測る指標には、顧客数を基準にするもの、契約件数を基準にするもの、売上を基準にするものがあります。自社のビジネスモデルに合わない指標だけを追うと、実態を正しく把握できません。まずは、それぞれの指標が何を測っているかを理解しましょう。
| 指標 | 主な測定対象 | アップセルを含むか | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 顧客リテンション率 | 顧客数 | 含まない | 既存顧客の維持状況 |
| カスタマーチャーン率 | 顧客数 | 含まない | 顧客の解約状況 |
| 契約更新率 | 更新対象契約 | 含まない | 更新時期を迎えた契約の継続状況 |
| GRR | 既存顧客の経常収益 | 含まない | 既存売上の維持力 |
| NRR | 既存顧客の経常収益 | 含む | 維持と拡大を含む既存顧客売上の成長 |
顧客リテンション率
顧客リテンション率は、一定期間の開始時点に存在した顧客のうち、終了時点でも継続している顧客の割合です。計算期間中に新規顧客が増える場合は、終了時点の顧客数から新規顧客数を除いて計算します。
顧客リテンション率(%)=(期間終了時の顧客数-期間中の新規顧客数)÷期間開始時の顧客数×100
月初に100社の顧客が存在し、月中に新規顧客を20社獲得し、月末の顧客数が110社だった場合、既存顧客のうち継続したのは90社です。顧客リテンション率は90%となります。
ただし、複数年契約の顧客と月次契約の顧客が混在する場合、単純な顧客数の比較だけでは解約機会の違いを反映できません。契約期間や顧客セグメントをそろえて比較する必要があります。更新時期が明確なサービスでは「契約更新率」を併用すると、更新対象となった契約の継続状況を把握しやすくなります。
カスタマーチャーン率
カスタマーチャーン率は、一定期間内に解約・離脱した顧客の割合です。
カスタマーチャーン率(%)=期間中に解約した顧客数÷期間開始時の顧客数×100
月初に100社の顧客が存在し、その月に5社が解約した場合、カスタマーチャーン率は5%です。
同じ対象期間と顧客母集団を使う場合、顧客リテンション率とカスタマーチャーン率は、おおむね表裏の関係になります。ただし、休眠、無料プランへの移行、一時停止などをどのように扱うかによって数値が変わるため、自社でチャーンの定義を統一することが重要です。
また、解約をゼロにすることは現実的ではありません。チャーンレートの目安については「チャーンレートとは?計算式と平均・目安|解約率を下げる5つの施策」を参考にしてください。
契約更新率
契約更新率は、契約更新の対象となった顧客のうち、実際に更新した顧客の割合です。
契約更新率(%)=契約を更新した顧客数÷更新対象となった顧客数×100
たとえば、今月に年間契約の更新時期を迎えた顧客が20社あり、そのうち18社が更新した場合、契約更新率は90%です。
契約更新率は、年間契約や複数年契約など、更新時期が明確なビジネスで有効です。一方、更新時期を迎えていない顧客は計算対象になりません。そのため、将来の更新リスクを捉えるには、プロダクト利用率やヘルススコアなどの先行指標も必要です。
GRR(グロスレベニューリテンション)
GRR(Gross Revenue Retention)は、既存顧客から得ていた売上のうち、解約やダウングレードによる減収を差し引いた後、どれだけ維持できたかを示す指標です。アップセルやクロスセルによる増収は含みません。
GRR(%)=(期首の既存顧客経常収益-解約による減収-ダウングレードによる減収)÷期首の既存顧客経常収益×100
期首の既存顧客から得ていた月次経常収益が1,000万円で、解約による減収が50万円、ダウングレードによる減収が30万円だった場合、GRRは92%です。
GRRは、拡張売上で損失を相殺せず、既存の収益基盤をどれだけ守れたかを確認する指標です。そのため、プロダクトや顧客体験に継続上の問題がないかを把握するのに適しています。
NRR(ネットレベニューリテンション)
NRR(Net Revenue Retention)は、既存顧客からの経常収益について、解約・ダウングレードによる減収と、アップセル・クロスセルによる増収の両方を反映した指標です。
NRR(%)=(期首の既存顧客経常収益-解約による減収-ダウングレードによる減収+アップセル・クロスセルによる増収)÷期首の既存顧客経常収益×100
期首の既存顧客経常収益が1,000万円で、解約とダウングレードによる減収が80万円、アップセルによる増収が120万円だった場合、NRRは104%です。
NRRが100%を超えている場合、新規顧客の売上を含めなくても、既存顧客から得られる収益が増えていることを示します。ただし、少数の大口顧客によるアップセルが、多数の解約を補っている可能性もあるため、GRRやカスタマーチャーン率、解約社数もあわせて確認する必要があります。
GRRは収益を守る力、NRRは既存顧客内で収益を拡大する力を表すため、両方を組み合わせることで実態を捉えやすくなります。
解約を未然に防ぐために確認する先行指標
顧客リテンション率やチャーン率は、すでに起きた結果を示す指標です。解約が発生してから原因を調べても、失った顧客をすぐに取り戻すことはできません。そこで、価値実感、利用定着、顧客状態の変化を早期に捉える先行指標を確認します。
| 区分 | 主な指標 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 結果指標 | 顧客リテンション率、更新率、チャーン率、GRR、NRR | 実際に顧客や売上を維持・拡大できたかを検証する |
| 先行指標 | オンボーディング完了率、利用率、ヘルススコア、CSAT、NPS | 将来の継続・解約につながる変化を早期に把握する |
結果指標だけでは対応が遅れる理由
結果指標は、カスタマーサクセス施策の最終的な成果を確認するために欠かせません。しかし、解約率が悪化してから原因を調べても、失った顧客や売上をすぐに取り戻すことは困難です。たとえば、年間契約の顧客が製品をほとんど利用していなくても、更新時期までは契約顧客として集計されます。顧客リテンション率や更新率には問題が表れていなくても、実態としては解約リスクが高まっています。
そこで、オンボーディングの進捗、ログイン頻度、主要機能の利用状況、問い合わせ内容などを継続的に確認し、結果指標が悪化する前に介入します。NRRやGRRなどの収益指標と、CSAT・NPSなどの顧客状態を示す指標を組み合わせることで、カスタマーサクセス活動の全体像を把握しやすくなります。
オンボーディング完了率
オンボーディング完了率は、定められた導入プロセスを完了した顧客の割合です。
オンボーディング完了率(%)=オンボーディング完了顧客数÷オンボーディング対象顧客数×100
重要なのは、説明会への参加やマニュアル閲覧だけを完了条件にしないことです。初期設定、主要機能の初回利用、利用者の招待、運用ルールの策定など、顧客が自走するために必要な状態を条件として設定します。
たとえば、管理者向けの操作説明を実施しても、実際の利用部門がログインしていなければ、社内定着は進みません。「説明を行ったか」ではなく、「顧客が必要な行動を完了したか」を確認します。
プロダクト利用率・主要機能利用率
プロダクト利用率は、顧客がサービスをどの程度利用しているかを測る指標です。ログイン数、アクティブユーザー数、利用日数、操作回数などが用いられます。ただし、利用回数が多いだけでは、顧客が成果を得ているとは限りません。製品価値と結び付く主要機能の利用率をあわせて確認する必要があります。
たとえば、営業管理ツールに毎日ログインしていても、案件情報が更新されず、売上予測や営業会議に活用されていなければ、定着しているとはいえません。案件登録率、更新率、レポート閲覧率など、顧客の成功につながる行動を定義します。
利用率が低下した場合は、すぐに解約意向があると決めつけず、繁忙期、担当者変更、運用方針の変更などの背景を確認します。利用状況は、対話を始めるためのシグナルとして活用することが大切です。
ヘルススコア
ヘルススコアは、契約情報、プロダクト利用状況、顧客との接点、問い合わせ、アンケート回答(CSAT・NPS)などを組み合わせ、顧客の健全性を数値化した指標です。たとえば、次のような情報を組み合わせます。
| 評価領域 | 指標例 |
|---|---|
| 契約 | 契約金額、契約期間、更新日、支払い状況 |
| 利用 | ログイン頻度、主要機能利用率、利用人数 |
| 導入 | 初期設定、オンボーディング進捗 |
| 関係性 | 定例会参加率、担当者との接点、決裁者との関係 |
| 顧客の声 | CSAT、NPS、問い合わせ内容、要望 |
| 成果 | 顧客KPIの達成状況、導入目的の進捗 |
ヘルススコアは、最初から正解を設計できるものではありません。実際にスコアが低い顧客ほど解約しているか、スコアが高い顧客ほど更新・拡張しているかを検証し、構成指標や重み付けを調整します。
たとえば、ログイン頻度を高く評価していても、実際の解約と関係がなければ、主要機能の利用率や顧客成果へ評価軸を変更する必要があります。
自社に合った指標の選び方
すべての指標を同じ優先度で管理する必要はありません。ビジネスモデル、契約形態、顧客単価、製品特性に応じて指標を選びます。
| ビジネス・課題の特徴 | 優先して確認したい指標 |
|---|---|
| 顧客単価が比較的均一 | 顧客リテンション率、カスタマーチャーン率 |
| 顧客ごとの契約金額差が大きい | GRR、NRR、レベニューチャーン率 |
| 年間契約が中心 | 契約更新率、GRR、更新予定金額 |
| 導入直後の離脱が多い | オンボーディング完了率、初期コホート |
| 利用定着が課題 | アクティブ率、主要機能利用率、ユーザーリテンション |
| アップセルを強化したい | NRR、拡張売上、利用上限、上位機能への関心 |
| 顧客状態を早期に把握したい | ヘルススコア、利用変化、CSAT、NPS |
指標を選んだ後は、算出対象、期間、データ取得方法、更新頻度、担当者を定義します。同じ「チャーン率」でも、顧客数を対象にするのか、売上を対象にするのかによって意味が変わるため、社内で共通の定義を持つことが重要です。
リテンションが低下する原因
株式会社LOOVがB2Bツールの導入検討経験者100名に実施した「B2Bツール導入検討プロセス購買体験調査」では、「導入後にどの機能・使い方が有効か分からず、十分に活用できなかった」経験があると答えた人が62%にのぼりました。多くの場合「導入後に価値を実感できない」段階で、リテンションが崩れ始めます。
しかし、その原因はサービスの品質やカスタマーサクセスの対応だけではありません。営業時の提案、オンボーディング、プロダクトなど、顧客ライフサイクル全体に存在します。原因を「満足度が低い」「フォローが足りない」と大きくまとめるのではなく、改善できる粒度まで分解しましょう。以下では、その原因を4つに分解します。
1. 営業時の期待値と実際の価値に差がある
営業段階で実現できる効果を過大に伝えたり、必要な運用負荷を説明しなかったりすると、導入後に期待とのギャップが生じます。たとえば、「導入すれば営業活動を自動化できる」と説明されたものの、実際には案件情報の入力や運用ルールの整備が必要だった場合、顧客は期待した製品ではなかったと感じるでしょう。
契約前に、顧客が達成したい成果、必要な条件、顧客側が担う作業、成果が出るまでの期間をすり合わせることが重要です。営業からカスタマーサクセスへの引き継ぎでも、導入背景や約束した内容を正確に共有します。
2. オンボーディングや社内利用が進んでいない
初期設定や操作説明が完了しても、顧客が自力でサービスを活用できる状態になっていなければ、オンボーディングは完了していません。また、主要機能が使われていなければ、製品価値が十分に伝わっていない可能性があります。
たとえば、管理者だけが操作を理解していても、実際に利用する現場メンバーがログインしていない場合、業務への定着は進みません。また、データ連携に数か月かかり、レポートを一度も確認できない状態が続けば、導入意欲が下がり、社内での優先順位も低下します。
オンボーディングでは、システム設定、運用ルール、主要機能の利用、最初の成果までを一連のプロセスとして設計する必要があります。主要機能の利用率、利用人数、部門ごとのアクティブ率などを確認し、管理者だけでなく実利用者への教育や社内展開も支援します。
3. 成果や費用対効果など、価値を実感できていない
顧客が価値を実感するまでの時間が長いと、顧客は費用対効果に疑問を持ちます。顧客が製品を利用していても、導入効果を説明できなければ、契約更新時に予算を確保しにくくなります。
顧客が短期間で価値を感じられるユースケースを選ぶ方法が有効です。まず一つの部門や業務で成果をつくり、その後に利用範囲を広げます。契約時に成功指標を合意し、利用件数、削減時間、売上、顧客満足度などを定期的に振り返る必要があります。日常的な利用担当者だけでなく、更新判断を行う責任者にも成果を共有しましょう。
4. サポート・コミュニケーションに問題がある
問い合わせへの回答が遅い、担当者によって説明が異なる、必要な情報が届かないといった問題は、製品そのものへの評価にも影響します。
また、前述の「B2Bツール導入検討プロセス購買体験調査」では、「サポート情報や活用方法が複数箇所に散在し、探すこと自体が手間だった」と感じた人も40%にのぼりました。情報を探す負担そのものが問い合わせをためらわせ、つまずきが放置されたまま更新時期を迎える——これがサポート・コミュニケーション起因の解約につながります。
しかし、連絡回数を増やせばよいわけではありません。顧客の状況と関係のない情報を一律に送り続けると、コミュニケーションが負担になる可能性があります。利用状況に応じて応用機能や事例を案内する方が有効です。顧客の役割、利用目的、活用段階に応じて情報を出し分けます。
リテンション低下の原因を特定する方法
リテンション改善では、一般的な成功施策をそのまま導入するのではなく、自社のどこで顧客が離脱しているかを特定することが重要です。定量データで問題が起きている場所を絞り込み、顧客の声から背景を確認し、改善の優先順位を決めます。
1. セグメント・コホート分析で問題のある顧客群を絞る
全顧客の平均値だけを見ると、継続率が高い顧客群と低い顧客群が相殺され、重要な問題を見落とす可能性があります。業種、企業規模、契約プラン、契約金額、導入目的、担当部署、獲得チャネルなどで顧客を分け、リテンション率やGRRなどを比較します。
さらに、利用開始月や施策実施時期などの共通条件を持つ顧客群ごとに継続状況を追跡するコホート分析を行えば、どの時期に離脱が増えるか、オンボーディング変更後に継続率が改善したかを確認できます。離脱が特定の時期へ集中している場合、その直前の顧客体験を調べます。契約更新前に離脱が増えるなら成果の可視化や決裁者との接点が課題かもしれません。
2. カスタマージャーニー上の離脱地点を特定する
顧客が契約してから更新・拡大へ至るまでの行動を、カスタマージャーニーとして整理します。契約、キックオフ、初期設定、トレーニング、主要機能の利用、成果レビュー、更新という各段階について、顧客に期待する行動と実際の完了率を確認します。
たとえば、キックオフ参加率は高いのに、初期設定完了率が低ければ、設定作業の難易度や社内調整が障壁になっている可能性があります。主要機能の初回利用までは進むものの継続利用されない場合は、機能を日常業務へ組み込めていないと考えられます。
顧客が止まりやすい地点を特定することで、説明資料を改善すべきか、個別支援が必要か、プロダクト自体を改善すべきかを判断できます。
3. 解約アンケートとインタビューを行う
利用データだけでは、顧客が解約を決めた本当の理由まで分からない場合があります。解約アンケートやインタビューによって、顧客の判断背景を確認します。
「価格が高い」という回答があっても、その背景には、利用が定着せず費用対効果を感じられない、必要な機能がない、社内で成果を説明できないといった原因が存在するかもしれません。インタビューでは、導入時に解決したかった課題、期待と実際の差、利用が減った時期、そのきっかけ、継続に必要だった改善などを確認します。
解約を撤回してもらうための営業活動として実施するのではなく、率直な意見を得るための調査として位置付けることが重要です。
4. 解約理由を分類し、頻度・収益影響・改善可能性で優先順位を付ける
集めた解約理由を改善活動へつなげられる分類に整理します。
| 分類 | 具体例 |
|---|---|
| ターゲット・営業 | 顧客課題との不一致、過剰な期待形成、要件確認不足 |
| オンボーディング | 初期設定の停滞、操作理解不足、運用未確立 |
| 活用・定着 | 主要機能の未利用、利用者不足、担当者依存 |
| プロダクト | 機能不足、不具合、操作性、外部連携不足 |
| サポート | 回答速度、対応品質、情報不足 |
| 成果 | 効果が出ない、効果を可視化できない |
| 価格・契約 | 価格、契約条件、支払い方法 |
| 顧客側の事情 | 予算削減、組織再編、事業撤退、担当者変更 |
すべての解約理由へ同時に対応するのは現実的ではありません。原因ごとに、どれだけ頻繁に起きているか、どれだけ売上へ影響しているか、自社の施策で改善できるかを確認し、優先順位を決めます。発生頻度が高く、大きな売上を失っており、自社の施策で改善できる原因から着手します。
たとえば、小口顧客から「初期設定が難しい」という解約理由が多く挙げられている場合、個別面談を増やすより、設定画面やガイド、オンボーディング動画を改善した方が広い顧客へ効果を届けられます。
リテンションを高めるカスタマーサクセス施策【顧客ライフサイクル別】
リテンション施策は、すべての顧客に同じタイミングで実施するものではありません。リテンション低下の多くは、顧客によって特定の段階で起きるため、契約前・オンボーディング期、定着期、更新・拡大期では、顧客が抱える課題と必要な支援が異なります。
顧客ライフサイクルに沿って施策を設計し、次の段階へ進むために必要な状態を明確にしましょう。
契約前・オンボーディング期:価値を実感するまでの時間を短縮する
導入初期の目的は、操作説明を完了することではありません。顧客が製品を利用し、最初の具体的な価値をできるだけ早く得られる状態をつくることです。
1. 契約前に顧客の成功条件を合意する
顧客が製品を導入する目的と、成功と判断する状態を契約前に合意します。たとえば、「採用業務を効率化したい」という目的だけでは、成功したかを判断できません。「候補者への説明時間を月20時間削減する」「面談前の情報提供率を90%にする」など、顧客の業務に即した状態へ具体化します。
成功条件を定める際は、成果指標だけでなく、成果に至るために必要な行動も確認します。利用者の登録、データ連携、主要機能の利用、社内ルールの策定などを整理し、営業からカスタマーサクセスへ引き継ぎます。これにより、導入後に「何を目指して支援するのか」が曖昧になることを防げます。
2. オンボーディングで価値を得るまでの時間を短縮する
オンボーディングでは、すべての機能を網羅的に説明するのではなく、顧客が最初の価値へ到達するために必要な情報を優先します。たとえば、多機能なツールでも、まず顧客の最重要ユースケースを一つ選び、初期設定から実際の利用、最初の成果までを短期間で体験してもらうことで、価値を実感しやすくなります。
初期設定の完了期限、主要機能の初回利用、最初の成果を確認する日を設定し、進捗が遅れている顧客には早めに介入します。顧客ごとに主要機能を定義し、その利用状況を追跡します。機能を一度使ったかだけでなく、日常業務の中で継続して使われているかを確認することが重要です。
少人数のCS組織でオンボーディングを実行するための施策やツールを「カスタマーサクセスのオンボーディングとは?進め方を5ステップで解説」で紹介しています。
定着期:解約の予兆を捉えて先回りする
オンボーディング後は、顧客が製品を使い続け、成果を積み上げられる状態を支援します。利用が一時的に定着していても、担当者変更や組織状況によって解約リスクが高まることがあります。データと顧客との対話から変化を捉え、問題が深刻になる前に介入しましょう。
1. ヘルススコアで解約予兆を検知する
プロダクト利用率、問い合わせ、契約情報、顧客との接点などを組み合わせて、解約リスクを把握します。たとえば、主要機能の利用率が低下し、定例会への参加も途絶え、更新日が近づいている顧客は、優先的な確認が必要です。一方、利用頻度が一時的に下がっていても、繁忙期などの明確な事情があれば、同じ対応をする必要はありません。
ヘルススコアは、顧客へ連絡するかどうかを機械的に決めるものではなく、確認すべき変化を発見するために使います。アラートが発生したら、顧客へ状況を確認し、実際の課題に応じて支援します。
2. 顧客セグメント別にタッチモデルを設計する
顧客数が増えると、すべての顧客に個別面談を提供することは難しくなります。顧客の契約金額、成長可能性、支援の必要度などに応じて、ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチを使い分けます。
高単価で業務設計が複雑な顧客には、担当者が個別に伴走するハイタッチが適しています。一方、共通する課題が多い顧客には、ウェビナーやグループ相談会などのロータッチが有効です。操作説明やFAQなど、標準化できる内容は、動画やメール、プロダクト内ガイドを使うテックタッチで届けられます。
タッチモデルの選び方については、「ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチとは?タッチモデルの違いと具体施策12選」で詳しく解説しています。
3. 定期レビューで成果を可視化する
顧客との定期レビューでは、機能の利用状況だけでなく、契約時に定めた成功条件の進捗を確認します。たとえば、業務効率化ツールであれば、削減できた作業時間、処理件数、エラー数などを導入前と比較します。営業支援ツールであれば、入力率、商談化率、予測精度などを確認します。
成果が出ている場合は、その要因を整理し、他部門や他の業務へ展開できるかを検討します。成果が出ていない場合は、機能不足と決めつけず、利用方法、運用体制、社内展開などを確認し、改善計画を作成します。日常的な利用担当者だけでなく、更新判断を行う責任者とも定期的に成果を共有することが重要です。
更新・拡大期:成果を次の契約とアップセルにつなげる
更新・拡大期では、これまでに得られた成果を整理し、次の契約期間で達成する目標を合意します。顧客が自走できる環境を整えながら、新しい課題や利用範囲の変化を把握し、必要に応じて追加提案へつなげます。
1. コミュニティや教育コンテンツで顧客の自走を支える
顧客が製品を長く利用するには、担当者へ毎回問い合わせなくても、必要な情報を得られる環境が必要です。ナレッジベース、操作動画、活用事例、ウェビナー、ユーザーコミュニティなどを整備し、顧客が自分の課題に応じて学べる状態をつくります。
たとえば、新任担当者向けの基礎コンテンツと、経験者向けの応用事例を分ければ、利用段階に合った情報を提供できます。コミュニティでは、他社の活用方法を知ることで、自社だけでは思いつかなかったユースケースを発見できる場合があります。
ただし、コンテンツを公開するだけでは利用されません。顧客の利用状況や課題に応じて、適切なタイミングで案内する必要があります。
2. 顧客成果に応じてアップセル・クロスセルを提案する
アップセルやクロスセルは、顧客が成果を得ており、追加契約によって新しい課題を解決できる場合に提案します。たとえば、一部門で製品の活用が定着し、業務時間の削減効果が確認できた場合、他部門への展開を提案できます。利用人数やデータ量がプラン上限に近づいている場合は、顧客の成長を止めないために上位プランを案内します。
提案のタイミングは、更新直前に限定しません。利用データ、問い合わせ内容、説明コンテンツへの反応などから、上位機能や関連サービスへの関心を把握します。ただし、顧客が現在の契約で成果を得られていない場合は、追加提案よりも活用支援を優先します。
アップセルを成功させるための実践ポイントと具体的な事例を「アップセルとは?意味・違い・事例をわかりやすく解説」で紹介しています。
リテンション施策を継続的に回す運用サイクル
リテンション改善は、一度オンボーディングやヘルススコアを導入すれば完了する取り組みではありません。顧客、製品、組織、市場環境が変化すれば、解約理由や有効な施策も変わります。次の運用サイクルを繰り返し、指標と施策を改善します。
1. 顧客の成功と対象指標を定義しモニタリングする
最初に、顧客がどのような状態になれば成功といえるかを定義します。顧客の事業成果だけでなく、成果へ至るために必要な利用行動も設定します。たとえば、営業生産性の向上を成功状態とするなら、商談登録率、案件更新率、会議でのレポート活用などを中間指標にできます。
そのうえで、結果指標と先行指標を選びます。顧客リテンション率やGRRだけでなく、主要機能利用率、ヘルススコアなどを組み合わせ継続的に確認します。平均値だけでなく、顧客セグメントやコホート別に変化を見ることで、問題が起きている顧客群を特定しやすくなります。
2. 介入トリガーとプレイブックを設定する
問題を把握してから対応方法を考えるのではなく、特定の変化が起きた場合の対応をプレイブックとして定めます。
| 介入トリガー | 主なアクション | 成功条件 |
|---|---|---|
| 契約後7日で初期設定が未完了 | 設定ガイドを案内し、必要に応じて個別支援 | 初期設定完了 |
| 主要機能を14日間利用していない | 活用事例や操作説明を提供 | 主要機能の初回利用 |
| アクティブユーザー数が大幅に減少 | 管理者へ利用状況と組織変化を確認 | 減少原因の特定 |
| 更新90日前にヘルススコアが低下 | 成果レビューと改善計画を実施 | 更新リスクの解消 |
| 上位機能への関心が確認された | 顧客課題を確認し、必要に応じて営業へ連携 | 商談化または対象外判定 |
プレイブックには、トリガー、担当者、実施期限、アクション、成功条件を設定します。担当者ごとに対応が変わることを防ぎ、施策の効果を比較できる状態をつくります。
3. CS・営業・プロダクトの役割を決める
リテンション低下の原因は、CS部門だけで解決できるとは限りません。営業時の期待値に問題がある場合は営業部門、機能不足や操作性が原因の場合はプロダクト部門、顧客への情報提供が不足している場合はCSやマーケティング部門との連携が必要です。
アップセルについても、CSが機会を検知し、営業が提案や契約交渉を担当するなど、役割を明確にします。顧客から見て担当部門が変わるたびに説明が途切れないよう、情報共有の方法も決めておきます。解約理由や顧客の声を部門横断で共有し、営業方針、オンボーディング、プロダクト改善へ反映します。
4. 更新・解約結果から指標と施策を改善する
施策を実施した後は、実際の更新、解約、売上、顧客成果と照合します。ヘルススコアが低いと判定した顧客が実際には更新しており、高いと判定した顧客が解約している場合、スコアの設計を見直す必要があります。
また、オンボーディング動画を送付した顧客の完了率が変わっていなければ、動画の内容、送付タイミング、対象者、視聴状況を確認します。施策の実施件数ではなく、顧客の行動やリテンション指標がどのように変化したかを評価し、指標やプレイブックを継続的に見直して、次のサイクルへ反映します。
リテンション改善で陥りやすいアンチパターン
リテンション指標や施策を導入しても、数値の読み方や運用方法を誤ると、適切な判断ができません。ここでは、リテンション改善で起こりやすい失敗を解説します。
NRRだけで顧客基盤の健全性を判断する
NRRが100%を超えていれば、既存顧客からの売上は純増しています。しかし、一部の大口顧客によるアップセルが、多数の小口顧客の解約を補っている可能性があります。たとえば、10社が解約して売上を100万円失っていても、1社のアップセルで150万円増えれば、NRRは高くなります。この状態を放置すると、顧客基盤が縮小し、将来の拡張機会も減少します。
NRRだけでなく、GRR、顧客チャーン率、解約社数、顧客セグメント別の数値を確認しましょう。
業界平均をそのまま目標にする
リテンション率やチャーン率の目安は、BtoBかBtoCか、顧客単価、契約期間、対象市場、企業規模などによって異なります。異なるビジネスモデルの平均値をそのまま目標にすると、現実的でない目標を設定したり、改善が必要な状態を見逃したりする可能性があります。
まずは自社の過去推移を確認し、顧客セグメントやコホート別に改善しているかを評価します。外部ベンチマークを参照する場合は、調査対象の事業モデルや企業規模が自社と近いかを確認しましょう。
ヘルススコアを作って終わりにする
ヘルススコアを作成しても、実際の更新や解約との関係を検証しなければ、適切な予測指標として機能しません。一般的なテンプレートを使い、ログイン数や問い合わせ件数を機械的に点数化しても、自社の顧客行動とは合わないことがあります。
スコアが低い顧客の解約率、高い顧客の更新率やアップセル率を確認し、構成指標、重み付け、閾値を見直します。また、アラート後にどのような介入を行い、顧客状態が変化したかも記録しましょう。
すべての顧客に同じ支援を行う
すべての顧客に同じ回数の面談、同じ説明、同じメールを提供すると、必要以上に工数がかかる一方で、顧客ごとの課題には対応できません。
複雑な業務設計が必要な大口顧客には個別支援が必要ですが、定型的な操作説明まで毎回面談で行う必要はないでしょう。反対に、テックタッチだけでは解決できない顧客へ自動メールを送り続けても、問題は改善しません。
顧客の契約金額、支援ニーズ、成長可能性、ヘルススコアなどに応じて、タッチモデルと支援内容を変えます。
更新直前まで介入を待つ
更新時期が近づいてから利用状況や顧客成果を確認しても、課題を解決する時間が残されていない場合があります。たとえば、年間を通じて利用が定着していない顧客に、更新1か月前から支援を始めても、費用対効果を証明するのは困難です。
オンボーディング完了、主要機能利用率、アクティブユーザー数などを継続的に確認し、変化が起きた時点で介入します。更新前には、解約を防ぐための説明ではなく、これまでの成果と次年度の目標を話し合える状態を目指しましょう。
まとめ
リテンションの状態を正しく把握するには、顧客リテンション率やチャーン率だけでなく、GRR・NRRなどの収益指標も確認する必要があります。また、解約や更新という結果が表れる前に、オンボーディング完了率、主要機能利用率、ヘルススコアなどの先行指標を確認することが重要です。
数値が悪化している場合は、全顧客の平均値だけで判断せず、顧客セグメントやコホートに分けて問題のある顧客群を絞り、カスタマージャーニーや顧客へのヒアリングから原因を特定します。そのうえで、契約前・オンボーディング期、定着期、更新・拡大期という顧客ライフサイクルに合わせて施策を実行しましょう。
また、施策を一度実施して終わらせず、顧客状態のモニタリング、プレイブックによる介入、部門横断での改善、更新・解約結果の検証を繰り返すことが、継続的なリテンション向上につながります。
カスタマーサクセスの業務削減に
興味ありませんか?
- 同じような説明をしているミーティングの回数が多い
- オンボーディングが上手くいかず立ち上がりに時間がかかる
- 活用方法をもっと伝えたいがミーティングが設定できない
このようなお困りごとがありましたら、ぜひ一度Video Agent「TALKsmith」を検討してみてください。「TALKsmith」は対話型パーソナル動画で最適な解説・説明を自動化をすることができます。そのためCSコストの削減から、継続的な顧客関係の構築まで実現できます。まずはサービスサイトをご覧ください。
カスタマーサクセスとリテンションに関するよくある質問
リテンション率とチャーン率の違いは?
リテンション率は、一定期間に既存顧客をどれだけ維持できたかを示す指標です。一方、チャーン率は、一定期間にどれだけ顧客や売上を失ったかを示します。同じ顧客母集団と期間を対象にした顧客リテンション率とカスタマーチャーン率は、おおむね表裏の関係です。ただし、計算対象や新規顧客、休眠顧客の扱いによって単純に合計100%にならない場合があります。自社で対象期間、顧客の定義、解約とみなす条件を統一することが重要です。
GRRとNRRのどちらを重視すべき?
どちらか一方ではなく、GRRとNRRを併用することが基本です。GRRは、アップセル・クロスセルを除外し、既存売上をどれだけ維持できたかを示します。NRRは、解約・ダウングレードによる減収と、アップセル・クロスセルによる増収の両方を含みます。GRRで既存収益の安定性を確認し、NRRで既存顧客からの収益拡大を確認します。NRRが高くてもGRRが低い場合は、一部のアップセルが多数の解約を補っている可能性があります。
リテンション率の目安は?
リテンション率の適切な水準は、業種、契約期間、顧客単価、BtoB・BtoC、対象セグメントなどによって異なります。異なるビジネスモデルの業界平均をそのまま目標にするのではなく、まず自社の過去推移と顧客セグメント別の差を確認します。外部ベンチマークを使う場合は、調査対象となる企業の規模、顧客単価、契約形態などが自社と近いかを確認したうえで参考にしましょう。
リテンション率は月次と年次のどちらで測る?
契約形態と顧客行動に応じて、月次と年次の両方を使い分けます。月次契約のサービスでは、月次リテンション率や月次チャーン率を確認することで、変化を早期に把握できます。一方、年間契約が中心の場合は、年次更新率や年次GRRが契約実態を反映しやすくなります。ただし、年間契約でも利用率やヘルススコアは月次で確認し、更新時期を待たずにリスクへ対応する必要があります。
コホート分析はどのように行う?
最初に、契約開始月、利用開始月、プラン、業種、獲得チャネルなど、分析したい条件で顧客をグループ分けします。次に、各コホートについて、利用開始後1か月、2か月、3か月といった同じ経過期間のリテンション率や利用率を比較します。たとえば、オンボーディングを変更した月の前後でコホートを分ければ、新しい施策によって初期定着率が改善したかを確認できます。
ヘルススコアには何を含める?
契約情報、プロダクト利用状況、オンボーディング進捗、顧客との接点、問い合わせ、CSAT・NPS、顧客成果などを組み合わせます。ただし、すべてのデータを入れれば精度が高まるとは限りません。自社の更新・解約と関係する指標を選び、実際の結果と照合しながら重み付けを見直します。ヘルススコアは、顧客を評価するためではなく、どの顧客へどのような支援が必要かを判断するために活用します。
リテンション改善はCS部門だけの責任?
リテンション改善はCS部門だけで完結する取り組みではありません。顧客とのミスマッチや期待値のずれにはマーケティング・営業、機能不足や操作性にはプロダクト・開発、問い合わせ品質にはサポート部門が関係します。CSは顧客の利用状況や声を集め、各部門へ還流する中心的な役割を担います。解約理由や顧客成果を共通データとして管理し、部門横断で改善する体制が必要です。


